「黒手組助六」(黒手組曲輪達引)という狂言に番頭権九郎という役があります。鬘(かつら)は”油付(あぶらつき)角丸(かどまる)の眼鏡(めがね)”。
角丸というのは、頭の毛が薄くなり鬢(びん)の上部の角が丸くなっているところから、又、眼鏡というのは髷がくるりと円になっているところから来ている呼び名です。
「玄冶店」(与話情浮名横櫛)の番頭藤八や「浜松屋」(弁天娘女男白浪)の番頭与九郎等、一般的には番頭は脇役で、鬘も”袋付(ふくろつき)角丸の眼鏡”を用いることが多いです。
「黒手組助六」の番頭権九郎は、助六との二役で座頭の役です。脇役ではなく主役なので、格付けで油付になっているのです。
他にも「ちょいのせ」(新版色讀販)の油屋番頭善六も主役級の番頭で、”油付すっぽり角丸研ぎ出し鬢の眼鏡”という頭です。眉毛はしかけで動くようになっています。

番頭の鬘(かつら)で珍しい物としては、他に「紙子仕立両面鏡」の番頭権八の”油付すっぽり雀鬢の鶺鴒髷(せきれいまげ)”があります。
油付の髷が、鶺鴒(せきれい)という鳥の尻尾のごとくカタカタと動くので、鶺鴒髷という名前が付いています。


この鬘は「紙子仕立両面鏡」という狂言が出ない限りは、日の目を見ることはありません。このようになかなか見ることがない鬘がいくつかあるのです。
【那須正利】【写真:岩田アキラ】