先月、市川海老蔵さんが「弁天小僧菊之助」を演じられました。
写真は成田屋系の結綿ですが、この役の髪型は演じる役者さんによって二通りあり、尾上菊五郎さんなど音羽屋系の方(かた)は文金という髪型でなさいます。
くす玉という丸い簪は通常右側に差すものですが、これは左側に差してあります。
番頭にそろばんで額を割られた弁天小僧は右手で額の傷をおさえて畳に顔を伏せます。
その時に左手で楠玉の房をおさえ、駄右衛門に男と見咎められて顔を上げた時楠玉が抜けるようにするためです。
そこから急に男の台詞になり、凄味が出るのです。
番頭に額を割られたり、手代に取り囲まれたりするどさくさにまぎれて、かつらも右側の傷がついた物に掛けかえておきます。
男の姿に合うよう、小ぶりで、鬢金(びんがね)もなく、髱(たぼ)も丸髱(まるたぼ)から地髱(じたぼ)に変えてあって、ギャップがより強調されます。
引込み(ひっこみ)の、南郷の羽織を着て手拭いで頬かむりをした姿が、スッキリと見えるのもこのためです。