立ち役の鬘には、油付と袋付があります。袋付は櫛で結い上げた鬘です。油付は後頭部の部分を、固い油で少しずつ毛を固めながら髷の形に拵え(こしらえ)上げたものです。この髷は床山が作るもので鬘の後頭部として使います。
この油付も「研ぎ出し」と「櫛目」の二通りがあります。「研ぎ出し」は羽根の部分がピカピカ光っているものです。「櫛目」は毛の筋がはっきりと櫛の目に沿って入っているものです。
「忠臣蔵四段目、七段目」の大星由良之助の鬘は、油付の細みよりという鬘です。
四段目と七段目も同じ細みよりですが少し違いがあります。四段目の鬘は「櫛目の細みより」で七段目は「研ぎ出しの細みより」です。
同じ細みよりだから一枚でよいように思われますが、七段目は「一力茶屋」の華やかな場面ですから研ぎ出しの光った鬘になっています。
四段目は判官切腹に重苦しい心で国表より急いで駆け付ける場面ですから、鬘が光っていてはいけないのです。
(鬘の名称としては、櫛目とは明記しません。)
【文:那須正利】